アナエロビックファーメンテーション
きっとこの記事に辿りついた方はどこかでこの名前を聞いたことがあるコーヒー好きな方なのでしょう。
最近ブームになりつつあるコーヒーの加工方法の一つです。
コーヒーの加工
コーヒーチェリーを収穫した後、
コーヒー豆つまり種子を取り出しが必要になります。
果肉のついたコーヒーチェリーのままだと輸送や保管されている間に腐ってしまうからです。
そのために、処理することを「コーヒー加工方法」「精製」「プロセス」などと呼びます。
この加工方法によってコーヒーの味わいやフレーバーは変わってくるのです
代表的なコーヒーの加工方法は2つあり、ウォッシュド、ナチュラルとなります。
ウォッシュドプロセスはクリーンな酸味とさっぱりとした味わいが特徴で、
ナチュラルプロセスはフルーツなどの果実味のある独特なフレーバーが特徴となることが多いです。
詳しくはこちらの記事:「コーヒーの加工方法って何?ウォッシュト、ナチュラル、ハニーって?」で解説しています。
特殊な加工方法
一昔前は上の2つの加工方法で間に合ってました。
ただここ最近はスペシャルティコーヒーが流行り、コーヒーを楽しむ人のバラエティが増え、
コーヒーの味わいにも多様性が必要になってきています。
そこでコーヒー農園の生産者たちは、少しでも独特なフレーバーを持ったコーヒーをつくり、高く売りたいという気持ちが湧くのです。
そのために、新しい品種を植えたり、新しい加工方法を試したりと試行錯誤が生まれます。
ゲイシャというフレーバーに富んだ品種や、ラテンアメリカでよく見られるようになってきたハニープロセスはその代表例です。
その新しい加工方法の中でもここ最近注目を浴びているのが、
今日のテーマ、アナエロビックファーメンテーションです。
JBCやWBCなどバリスタ競技でも良く目にするようになってきました。
アナエロビックファーメンテーション。
英語ではAnaerobic fermentationと書きます。日本語に直すと「嫌気性発酵」。
文字だけ見ると「???」が並びます。
アナエロビック ファーメンテーションとは
アナエロビックファーメンテーションとは日本語に直すと「嫌気性発酵」だと先ほど書きました。
この嫌気性発酵、元々はワインなどでよく見られる手法だそうです。
コーヒーの加工には発酵の段階が生まれます。
通常ナチュラルプロセスで加工するときは、天日乾燥など空気に晒され、酸素に触れながら発酵していきます。
しかし、発酵酵母の中には、酸素を嫌い、酸素がないところで活動的になる酵母やバクテリアがいます。
そいつらが活発に活動し発酵すると、通常の発酵時とは違った味わいやフレーバーが生まれるのです。
酸素が嫌いな酵母を活発にするために、空気を抜いて発酵させるやり方を「嫌気性発酵」、今日のアナエロビックファーメンテーションと言います。
つまり、コーヒーチェリーをタンクや容器などにつめ、空気を抜き、酸素をなくした状態で発酵させるやり方です。
そうすることで、通常の発酵時とは異なったフルーツ、ワインやモルツのようなお酒、さらには京都銘菓「八ツ橋」を思わせるようなシナモンといった独特なフレーバーや甘みなどが生まれます。
この独特な味わいが味わえることから、スペシャルティコーヒーの中で注目を浴びています。
ちなみに、アナエロの発酵をさせた後に、ウォッシュトプロセスの加工をすると、「アナエロビック・ウォッシュト」と呼ばれ、ナチュラルプロセスの加工をすると「アナエロビック・ナチュラル」と呼ばれます。もはや呪文です。
アナエロビックファーメンテーションの課題
ただ、この発酵方法、どんな味が出てくるかが未だ未知なところがあり、冒険的です。
うまく発酵がいけば、今までにない美味しいコーヒーができるかもしれません。
逆に発酵に失敗してしまうと、求めていない嫌な味も出てきてしまいます。
また、この特殊な発酵をするためには特殊な装置も必要になってしまいます。
そのために農園は投資が必要になってきます。
またその特殊性ゆえ通常の加工より手間がかかってしまいます。
お金を持っている農園が、付加価値をつけるために行っているのが現状なようです。
ただ、まだ見ぬコーヒーの味わいを求めて、様々な試行錯誤が行われています。
ある農園では発酵時に、イースト菌を入れて発酵をしてみたり、
COEブラジル2019の優勝のパイエ・フィルホ農園はコーヒーを袋に入れ乾燥させるといった特殊な手法を行い、フレーバーや甘さを引き出したりをしています。
10年前にはあまり知られていなかったゲイシャ種が、
JBCやWBCで有名になり、今ではコーヒー好きの間では当たり前の常識にゲイシャはなっています。
今は競技会やオークションなどでしか見ることができず、
実際に触れられる機会が少ないアナエロビックファーメンテーションですが、
近い将来、身近なコーヒーショップで並び、味が一般になるかもしれません!
そんな近い将来を楽しみにつつ、今日はこれまでにしておきます。
**Photos are from unsplash